世界の小麦の供給状況が劇的に悪化する中で、中国政府の「小麦の爆買い」が加速中。供給の影響は時間と共に地球規模になることがほぼ確実に
世界的な小麦供給不足は待ったなしの状態!
中国、米国、欧州等の主要小麦生産地で天候異常が拡大
昨年、以下のタイトルの記事を書かせていただいたことがありました。
[記事] 歴史上最悪の食糧危機の「最期のトリガー」を引くのは「中国」。それが故意か故意ではないかは別として
In Deep 2022年4月21日
中国は、昨年の時点で、すでに、トウモロコシや小麦などの海外からの輸入量を劇的に増加させていたのですが、
「仮に、今後、中国の穀物生産の状況に何かあった場合、さらに大変なことになる」
というようなことを書きました。
今年それが起きてしまっています。
小麦の収穫に重要な時期であるこの春に、中国の主要な小麦生産地が、「かつてないような大雨」に見舞われたのです。
これについて、世界の食料流通についての調査とリポートを発行している Gro インテリジェンスが報告を掲載していました。
最初にそれをご紹介したいと思いますが、中国の小麦の輸入量は、増加していた昨年より、さらに劇的に増加しており、「爆買い」という言葉を用いてもいいような数値を示しています。
以下のグラフの一番上のグラフが、今年 2023年の小麦輸入量の推移です。昨年同時期比で、60%の増加となっています。
中国の過去7年間の小麦輸入量の推移
gro-intelligence.com
この状況について、Gro インテリジェンスの記事をご紹介します。
土砂降りの雨が中国の小麦輸入の増加を促している
Drenching Rains Seen Driving China Wheat Imports Higher
gro-intelligence.com 2023/06/13
中国の小麦収穫時期前の豪雨により、小麦作物の品質が低下し、同国の輸入小麦の必要性が高まることが予想されている。
このグラフで示されているように、中国の小麦輸入は、2023年の最初の 4か月間ですでに記録的なペースに達している。
年初から現在までの輸入量は、ともに記録的な輸入年となった 2021年と 2022年の同様の期間と比べて 60%増加している。
さらに、中国国内の小麦価格は年初以来、他の穀物に比べて大幅に下落しており、その結果、動物飼料混合物において他の穀物の代わりに、輸入小麦と地元産小麦の両方が小麦に代替されることが増えている。
アメリカ農務省は先週、6月の報告書で、2023/24年の中国小麦輸入量の推定値を、前月の農務省推定値より 14.3%増の 1,200万トンに大幅に引き上げた。飼料用小麦の推定量は 6%増の 3400万トンに修正された。
小麦輸入量の予想増加は、中国が主要な穀物の「純輸入国」となる構造転換を遂げていることを受けて生じており、2020年1月以来、我々はその傾向を強調してきた。
作物のサイクルの後半に過度の雨が降ると、小麦のタンパク質含有量が低下し、作物の一部がダメになる可能性があり、それらは、製粉小麦として知られる人間の消費用の小麦としては使えず、その量は減少し、そして、異常に高い割合が動物飼料として使用されるようになる。
以下で示されるように、中国最大の小麦生産省である河南省は 5月の大部分にわたって雨に浸され続けた。他の主要な小麦栽培地域である山東省と安徽省でも大雨が降った。
最近のその悪天候による小麦の損失の程度を定量化するには数週間かかる可能性があるが、中国の冬小麦は小麦総生産量の約 95%を占め、5月下旬から 6月に収穫される。春の大雨により収穫が遅れ、最終的な収穫面積が減少する可能性がある。
中国小麦収量予測モデルは、製粉小麦と最終的に動物飼料となる小麦を区別していないが、現時点では同国の小麦総生産量は昨年の生産量より増加すると予測されている。
中国は世界最大の小麦生産国であるにもかかわらず、穀物の純輸入国だ。
国外の世界的な供給がここ 10年以上で最も逼迫した水準に近づいている現在、中国の小麦輸入需要の増加は世界中に波及効果をもたらすだろう。
中国は 特に小麦の輸入をオーストラリアに依存しているが、オーストラリアはエルニーニョ現象の発生により、次回の小麦の収穫量が前年比で 30%以上減少すると予想されている。
ここまでです。
着目しなければならないのは、中国以外の生産国の天候状況も良くないということです。
世界の小麦生産量のトップ10の国は以下となっています (2021年)。
小麦の生産量 トップ10
1位 中国
2位 インド
3位 ロシア
4位 アメリカ
5位 フランス
6位 ウクライナ
7位 オーストラリア
8位 パキスタン
9位 カナダ
10位 ドイツ
それぞれどんな状況かといいますとも以下のような感じです。
1位 中国 (小麦農作地帯の大雨。上の記事)
2位 インド (3月に主要な小麦生産地が雹嵐でダメージ。過去記事)
3位 ロシア (小麦の穀物協定を再度停止することを検討中。RT)
4位 アメリカ (全米最大の小麦生産地が過去最低の収穫の見込み。後述します)
5位 フランス (過去最悪の干ばつ)
6位 ウクライナ (ダム決壊による洪水など他にもいろいろ)
7位 オーストラリア (エルニーニョの影響で収穫量が減少する見込み)
8位 パキスタン (現状は不明。昨年、干ばつと大洪水)
9位 カナダ (山火事で地域的に太陽光が遮られている。記事)
10位 ドイツ (不明)
アメリカ最大の小麦生産地は、カンザス州ですが、「小麦収穫量が 1957年以来最低になる見通し」が報じられています。こちらに翻訳しています。
(報道より)
> 米国の穀倉地帯と呼ばれているカンザス州だが、今年、同州の小麦は過去60年以上で最小の収穫量となる模様だ。
>
> これは、農家から食料品店の消費者に至るまで、直接的な影響が出る可能性がある事態だ。
>
> カンザス州の製粉工場はおそらく東ヨーロッパで栽培された小麦を購入する必要があるだろう。 nofia.net
ここに「東ヨーロッパで栽培された小麦を購入する必要があるだろう」とありますが、そのヨーロッパの現状は以下です。
・ヨーロッパの干ばつ指数が過去最悪の状況となり、小麦生産量に懸念 (2023/06/11)
ヨーロッパの小麦作物の健康状態が少雨で悪化
…EU 最大の小麦生産国であるフランスでは、 小麦作付地域の生育状況が急速に悪化している。今年これまでの累積降水量は、フランスの小麦栽培地域の 10年間の平均を 50%下回っている。
さらに、フランス小麦の土壌水分測定値は、昨年のこの時期に見られた低レベルまで低下した。過去 2週間にわたる干ばつ指数の着実な上昇により、この指数は過去 20年間で 3番目に高い干ばつの測定値にまで押し上げられた。
干ばつ指数によると、スペインの農地も「極端な」干ばつ条件(少なくともここ 20年で最悪)に見舞われており、フランスでも乾燥による栽培条件の問題が生じている。
アメリカに関しては、以下のような記事も書きました。
[記事] アメリカの冬小麦の収穫が「記録されている歴史の中で最悪」となる見込みが示される
地球の記録 2023年5月10日
これって、つまりは、世界の小麦の主要な生産地が、ほぼすべて何らかのダメージを受けているということになるのではないでしょうか。
しかも、エルニーニョの影響はこれからが本番です。
小麦ではないですが、タイ政府は、エルニーニョによる水不足への備えとして、米作農家に「生産量を減らすように」要請しています。
「二期作をやめて、1シーズンだけの米作にしてほしい」
と。
これだと、普通に考えれば、「生産が半分になっちゃう」ことになります。ただでさえ、今年は世界的なコメの流通が過去20年で最大の減少を見せると予測されています。
コメはともかく、小麦も次第に厳しいことになってきていますが、ところが、小麦の国際価格は「安いまま」になっています。
過去1年の小麦先物価格の推移
tradingeconomics.com
全体として「理に適っていない」状態が見受けられるのですが、中国がこれまで小麦の爆買いと、この価格の低下は関係があったかもしれません。
中国の天候次第でしょうが、今後も中国は買い続けると思われます。
こういう状態が続いていくと、
「どこかの時点で突然、食料供給が危機的になる」
というような可能性もないではないかもしれません。
いろいろな「突然起きた」ようなことも、遡れば、すべてに「十分にその徴候はあった」ことがわかります。
[記事] 戦争、市場の崩壊、食料危機。すべては突然起きる「ように見える」だけなのかも
In Deep 2022年9月24日
それは今年ではないかもしれないですが、気候的には今後さらに厳しくなると思われますので、気象の面からは、世界の農業生産が大きく改善される可能性はあまりないのではないかと。
なお、現在、ロシアで、「サンクトペテルブルク経済フォーラム」というものが開催されています。出席国は、なんと 100カ国以上。
[記事] ロシアで行われる経済フォーラム会議に世界100カ国以上の代表者が出席 (2023/06/14)
この会議で食糧安全保障が話されるのかどうかはわからないですが、BRICS を中心として、食料生産大国が多いですので、いざというときの相互の保障のようなものはできるのかもしれないですね。
穀物の流通に何かあった場合、日本は対応できるのでしょうかね。
自給率も低い上に信頼できる同盟国もない。
コメント