「日給は1万7000円」「毎月600枚から1800枚偽造した」 マイナカードを偽造していた中国人女性が明かした手口
実行犯は中国籍の女性
健康保険証の廃止まで半年。河野太郎デジタル相(61)はマイナ保険証の利用を促そうと躍起だが、利用率は4月時点で6%台にとどまっている。それもそのはず。偽造マイナンバーカードの不正利用など問題は山積しており、制度の根幹から信用が揺らいでいるのだ。【前後編の後編】
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偽造マイナカードを使った不正が横行するなか、本誌(「週刊新潮」)は実際に偽造に手を染めていた実行犯に話を聞いた。
その人物は警視庁が昨年12月、有印公文書偽造などの容疑で逮捕した中国籍の女性(27)である。
彼女は起訴され、一審で懲役3年の判決を受けて控訴中。現在は東京拘置所に勾留されている。
「(出身は)福建省。十数年前に日本に来た。(来日の目的は)生活と中学校で勉強するためです」
拘置所で彼女はこう身の上を明かし、偽造を始めた経緯について以下のように話した。
日給1万7000円
「(マイナカードの偽造を行っていたのは)捕まるまでの4カ月間ぐらい。日本にいる中国人の友達が、中国にいるボスを紹介してくれた。会ったことはないですが、ボスは中国人の男。声の感じから、年齢はたぶん20代だと思う」
そして、手口をこう説明する。
「中国から届くカードに、パソコンとプリンターを使って、データで送られてきた(生年月日や氏名などの)文字と顔写真を印刷するだけですよ。(偽造に使用する)パソコンとプリンターは特殊なものではなく、市販のものでした」(同)
ずいぶんお手軽に犯罪は実行されていたようなのだ。
「(作業は)大阪(市の自宅)で、夜10時から午前3時まで。ボスの指示でその時間に仕事していた。ボスから電話やチャットで指示があるので、それに従って作業していました」
指定された作業時間は深夜帯。指示役の警戒心がうかがえよう。報酬については、
「日給制だった。最初は1日600元(約1万3000円)。(中国のIT大手テンセントが開発したモバイル決済サービスの)WeChat Payで受け取っていました。仕事を始めて2カ月したころに辞めたいと相談したら、1日700元(約1万5000円)に上がった。その翌月も、また辞めたいと話したら1日800元(約1万7000円)になりました」
「毎月600~1800枚偽造」
加えて、彼女はマイナカードの偽造以外にも「危ない仕事」を行っていた。
「在留カードも作っていました。割合で言うと、マイナカードよりも在留カード(の偽造)が多かった。在留カードはベトナム人のものが多くて、フィリピン人、タイ人、インドネシア人、中国人が少し。ビザが切れていたり、働くビザがない人が買っていた。マイナカード(の購入者)は、ほとんどが日本人。携帯電話を契約するのに使っていると聞きました」
社会部デスクが言う。
「彼女はマイナカードや在留カードを、毎月600~1800枚偽造。5カ月間で200万円ほどの稼ぎがあった。また、中国国内の組織はそうしたカードを“顧客”に1枚約1万円で販売。少なくとも、3000万円ほどの売り上げがあったものとみられています」
ICチップを読み取れば本人確認は厳格化できるが…
このようにして偽造されたマイナカードを通じて、前編で紹介した都議や市議は不正を働かれていたわけだ。
河野デジタル相は先月14日の記者会見で、
「ICチップを読み取っていただくと、本人確認が厳格にできます。カードリーダーは1台5000円程度。そんなに難しい話ではないのだろうと思います」
などと発言。事業者側がマイナカードを目視で確認するだけでは不十分だとの考えを示した。
ITジャーナリストの三上洋氏が補足する。
「基本的にマイナカードで偽造できるのは券面の文字と画像データだけ。ICチップの中の情報は暗号化されており、複製はほぼ不可能。つまり、ICチップを読み取ることで、本人確認が厳格化できるわけです」
もっとも、情報通信技術(ICT)先進国のエストニアのICT事情に詳しい、日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会理事の牟田学氏は、
「これまで、政府は積極的にICチップを用いて真贋確認をしてくださいとは言ってこなかった。マイナカードの利用者を増やそうという動きばかりが目立っていたように思います」
そう苦言を呈するのだが、
「政府は病院や薬局向けに、窓口でマイナ保険証の利用を勧める『台本』まで用意して、マイナ保険証の導入に躍起になっています」(前出・デスク)
健康被害も
しかし、である。そのマイナ保険証のせいで、“健康被害”が生じる恐れすらあるのだという。
「マイナ保険証導入による受付業務の負担増などの懸念に加えて、私が心配しているのは、それによって起こる健康被害です」
と言うのは、竹田智雄・全国保険医団体連合会会長だ。現在、現場ではマイナカードに健康保険証の情報ひも付けられていない等の問題が頻発しているといい、
「50代の女性が朝から急にろれつが回らず言葉を発しにくいことに気付き、私の病院に来られたことがありました。どう見ても、脳梗塞の初期症状でした。女性はマイナ保険証を持参したのですが、(不具合で)被保険者の資格が確認できなかったため帰ろうとされました。その人の場合は、家族が慌てて紙の保険証を届けに来てくれたので診療が可能になり、大きな病院でMRI検査もできた。結果、脳梗塞だと診断されたのです」(同)
患者は速やかに血栓溶解療法を施されてことなきを得たというが、
「そのまま帰ってしまっていたら、半身不随など最悪の事態につながりかねないケースでした」(同)
「こんな便利なものを廃止するなんて」
著書に『マイナ保険証の罠』がある経済ジャーナリストの荻原博子氏は、
「そもそもマイナカード発行は任意だったはず。政府はそれを普及させんがために保険証を廃止しようとしている。ですが、保険証だけは絶対に廃止してはいけません。どこでも誰でも安い料金で医療を受けることができて、更新手続きをしなくても、新しい保険証が届く。こんな便利なものを廃止するなんて、どうかしています」
憤るのも無理はない。
残りわずか半年で、政府が問題山積のこの状況を是正できるはずもあるまい。改めて提言しよう。保険証廃止はやめた方がいい。
前編では、実際にマイナカード偽造によるスマホ乗っ取りを経験した2名の議員に取材。乗っ取りが発覚した際に取るべき対応や被害額などについて報じている。
「週刊新潮」2024年6月13日号 掲載
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