ファーストリテイリング柳井正会長兼社長が、日本テレビの単独インタビューに答えました。グローバルに事業を展開する柳井社長は、世界から見ると日本は“年収200万円台の国”と、日本経済のこれからについて危機感を示しました。

取材した経済部・流通担当の片山桂子記者と、財界担当の城間将太記者が、単独インタビューを掘り下げます。

■「日本は日本人だけでこれからやっていけない」

経済部・流通担当 片山桂子記者
「今回は自身が代表を務めるファーストリテイリング財団の理事長として私たちのインタビューに応じました」

「財団の活動のひとつとして、バングラデシュにあるアジア女子大学の支援を行っています。貧困層や難民の女性たちに高等教育を提供するため、2008年に開学したんですけれども、卒業生の多くはオックスフォード大学だとか、コロンビア大学、パリ政治学院などに進学したり、政府系団体、世界銀行、WHO、グローバル企業などで活躍していますが、残念ながら現在日本で働いている卒業生は1人もいないんだとか」

経済部・財界担当 城間将太記者
「彼女たちはあまり日本を魅力的な働き先だとは考えてないんですかね」

片山記者
「柳井さんが抱いていたのは、日本の国力衰退への危機感でした」

ファーストリテイリング財団 柳井正理事長
「日本の場合、残念ながらこの30年間成長していなくて、『日本一国主義でいいんだ』という、すごくそういう感覚があるんですけど、でも世界の中の日本にならないといけないので」

「日本は日本人だけでこれからやっていけないでしょう。少数の若い人で大多数の老人をどうやって面倒見るんですか」

──労働力不足というのは、国力の衰退にもつながっていきますよね

柳井理事長
「労働力だけじゃなしに知的能力も落ちていくんじゃないですか。というのが、単純労働者ばかり入れているでしょう。知的労働者をもっと入れて、知的労働の生産性を上げるための勉強を日本でも海外でも一緒にやらないと。中間管理職から上級管理職の人口の中の移民、あるいは何か研究開発する、そういう人をもっと増やさないといけないんじゃないかなと思いますけどね。そこが少ないのが一番問題だと思いますよ」

城間記者
「デフレから脱して、日本経済は今、賃金や物価の緩やかな上昇が定着するかという最大の山場を迎えていると思うんですが、根本に人口減少で人手不足になっているから賃金が上がっている、じゃないと人が来てくれないみたいなところもありますよね。人口が減っていくなかで、今までみたいに自分たちだけでやろうとしても、そもそも戦えないという問題意識ですかね」

■中流階級の国からの転落…世界から見たら日本は“年収200万円台の国”

片山記者
国税庁によると、2022年の日本人の平均給与は年間で大体458万円だそうです。柳井さんは、『日本人の給与水準は30年間ほぼ上がっていない。それどころか、事実上200万円から250万円くらいに半減したようなものだ』と指摘しています」

「なぜかというと、一昔前の1ドル80円台という時代から比べると、円安の今は円の価値は半分になっているからなんですね。国力というのは貨幣の価値に表れると言うんです。つまり、『世界基準で考えたら日本は年収200万円台の国だよ』と」

城間記者
「先月、前財務官の神田眞人さんが日本テレビの単独インタビューに答えた時にも同じような指摘をしていました。円の実力ともいわれる『実質実効為替レート』の長期的な推移を見ると、1995年に最高値になってから、足元では65%も価値が減って、円の価値が3分の1になってしまったということなんです」

片山記者
「こうした状況に日本はどう対応すればいいのか柳井さんに聞いたんですけれども、柳井さんは『日本はもう中流階級の国じゃなくなった』という認識のもとに考えないといけないとおっしゃってました」

柳井理事長
「中流階級の国からそうじゃない国になっていったということをもっと自覚してやっていかないといけないんじゃないですかね。そこで『日本文化が好きだ』とか、『日本人と一緒に仕事をしたい』という人を増やしていかないといけないんではないですか。そういう人たちに『日本に来て一緒に仕事しませんか?』というのをどんどん進めていかないといけないんじゃないんですかね。外国の人が日本に来た時に、『良かったな』『こういうところに住んでみたいな』というふうに思えるような、そういう日本社会をつくらないといけないんじゃないですか」

──旅行ではいいなと思っていただけるかもしれないですけど、住んでというところになると

柳井理事長
「だから長期滞在みたいなところから仕事を始めるところまで、もっとすんなりと移行するような方法を考えたらどうですか。仕事をしてもらわないといけないんじゃないですか。『“旅行”よりも“仕事”で来てくれ』とか、家族で日本に移住したら清潔で、安全で、人はみんな親切で、挨拶もしてくれるし、一員として受け入れてくれますよ、ということをやらないといけないよね。個人とか企業がそれをやり始めるべきなんじゃないですか。そういうものが仕組みになるんですよ」

片山記者
「日本って島国で、日本人だけで“阿吽の呼吸”みたいな感じでやってきたところがありますので、異なるものを受け入れるという素地が残念ながらちょっと低いですよね。ジェンダーギャップについても柳井さんは『日本人はギャップがあるということすら意識していないんじゃないか』というふうに指摘して、『多様性を認めないといけない』と何度も強調していました」

■「おもてなし」にも変革の時?キーワードは“少数精鋭”

城間記者
「日本の良さとか強みをよく理解してくれる人材を受け入れて一緒に経済社会を作っていかないといけないというメッセージかなと私は受け止めたんですが、一方で、日本人はどうしていけばいいのかなという点は気になったんですね」

片山記者
「柳井さんの提言は、“少数精鋭で働く”という考え方にシフトチェンジしていって、日本の労働生産性を上げようというものでした」

柳井理事長
「少数精鋭で仕事するということを覚えないと日本人は滅びるんじゃないですか」

──人口が減っているなかで

柳井理事長
「人口が減っているということもだし、今の労働生産性が、皆さん一生懸命やっているんだけど低いじゃないですか。労働生産性が高くなるようなことをやっていかないと、今からの日本はやっていけないんじゃないですかね。どんどん人口が減っていったら、公共サービスで受けられるもの、あるいは民間でサービスを受けられるものが受けられなくなる可能性がありますよね」

城間記者
「日本生産性本部が公表している労働生産性の国際比較によると、2022年のデータで日本の1人あたりの労働生産性は8万5329ドルで、OECD加盟38か国中31位。ポルトガルハンガリーと同水準で、順位も1970年以降で最も低い水準に落ち込んでいるんですね」

片山記者
「柳井さんがおっしゃるには、日本は人海戦術で人を十分以上に使いすぎていたと。だから日本ほどサービスのいい国はない。しかもサービスはタダだと思っている。でも、本当はサービスというのはお金がかかることなので、会社経営としては本心からのホスピタリティを持った少数精鋭でやらなければならない。つまり安い賃金で大勢でまったりではなくて、高い賃金で少人数でそれに見合う仕事をしろと、そういうことかなと思いました」

城間記者
「海外に行くとチップを払う文化があるから、日本はサービスを無料で享受できるんだなと感じるんですけど、私も最近複数の企業のトップから同じ言葉を聞いたことがあります。日本はおもてなし、サービスの国だと。その適切な価値を価格に乗せていかないといけない時代だという文脈だったんですが」

片山記者
「日本の安全とかホスピタリティといった特性を少数精鋭で作れるようにして、その上で外国人が住んでみたいと思えるような日本社会をつくれと。外国人と張り合うのではなくて、日本人らしさ全開で共生すればいいのかもしれません」