草ぼうぼうの太陽光発電設備が各地で出現 草木に埋まった状態の写真に驚き
草木に覆われ火災が発生し延焼する危険性が存在。太陽光パネルは発火すると水をかけても消えず燃え続ける危険性も認識しておくこと。
なぜか、「草ぼうぼうの太陽光発電設備」があちこちに出現している。長かった酷暑で草木が成長し、管理が追い付かないだけなのか。
メガソーラーをめぐり発電事業者と地域住民の紛争が続く各地で人々が懸念しているのが、「固定価格買い取り制度の期間終了後、太陽光パネルが放置されてしまうのではないか」という問題だ。太陽光パネルのリサイクル義務化に向け、政府の検討が急ピッチで進む。地域住民の不安を払拭できるのか。
管理不適切な太陽光発電設備
政府は太陽光発電設備の廃棄・リサイクル制度を新たに作るため、環境、経済産業両省が合同で設けた有識者会議(注)で検討を進めている。2012年にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の買い取り期間終了に伴い、「不用となった太陽光パネルが大量に排出される」事態に備えるためだ。両省の推計では、排出量は2030年代半ばから増え、最大年50万トンにのぼる。
資源エネルギー庁は再生可能エネルギー事業の不適切案件通報窓口を設けている。2024年3月時点の同庁のまとめによると、窓口に寄せられた情報のうち、最も多かったのが、「柵塀が設けられていない」「標識が見当たらない」「維持管理がずさん」「パネルが一部破損したままになっている」などの「適正な事業実施」に関するものだった。
管理が不適切、不十分という問題がそのまま将来の放置、不法投棄につながるわけではない。しかし、その姿を目の当たりにした地域住民の間に、「20年の買い取り期間終了後に適切に廃棄・リサイクルされるのか」という懸念を生んでいる。
注:<中央環境審議会 循環型社会部会 太陽光発電設備リサイクル制度小委員会>と<産業構造審議会 イノベーション・環境分科会資源循環経済小委員会 太陽光発電設備リサイクルワーキンググループ>の合同会議
山の斜面のメガソーラーは、10月25日の撮影時、端の部分でも草木に覆われていた(撮影:河野博子)
2024年9月、私はX(旧ツイッター)に投稿された写真を見て驚いた。草木に埋まった状態の太陽光パネルが写っていた。投稿主は首都圏の大学の農業関係の研究者。連絡をとったところ、通りがかりに気になり、道路から撮った写真だそうで、位置情報を教えてくれた。
グーグルマップを見ると、同じ場所を2022年に撮影した写真があった。この時には、草木に覆われていない。やっと秋になった10月下旬、その場所を訪れると、研究者が9月に送ってくれた写真同様、草木に覆われていた。道路に面した敷地には廃車、廃タイヤ、石、木材などが置かれていた。草木の間からかろうじて太陽光パネルが見えた。
近所の人の話と資源エネルギー庁が公開している再生可能エネルギー発電施設の情報、不動産登記情報をつきあわせると、土地の所有者は埼玉県内の隣の市に住む個人で、発電事業者はその家族とみられる個人。発電出力は22kW、2014年に認定を得て翌2015年に運転を開始している。
近くに住む70代の女性は、「太陽光発電設備の持ち主がわからないんですよ。発電事業者や保守点検責任者を示す標識もありませんし。(太陽光パネルが置かれてから)しばらくは、周りの草も刈られていたんです。それからだいぶ経って今は、あんな状態。町会の役員をしていたときに、『防災防犯上困る』と市役所に言いましたが、全く取り合ってもらえませんでした」と不安そうに訴えた。
草木に埋まった個人所有の太陽光発電設備(撮影:河野博子)
道路上から見ると、草木の奥に太陽光パネルが見え、草木の前には石や木材などが置かれていた(撮影:河野博子)
メガソーラー保守点検企業「2年前から草の伸びが激しく」
個人所有の小規模な太陽光発電設備と同様、1000kW以上のメガソーラーでも草木に覆われているケースがある。
埼玉県内の里山に設けられたメガソーラーは、山の正面から見ても、脇から見ても、草木に覆われていた。私自身、2021年4月と2023年6月にそれぞれ、このメガソーラーを撮影している。その時には、太陽光パネルの周りに草木は茂っていなかった。
このメガソーラーは、株式会社1社、合同会社2社の計3社の太陽光発電設備(出力はそれぞれ1980kW)が連なっており、2021 年3~4月に運転を開始した。保守点検、管理を行っているのは、1つの会社だ。
保守点検を行っている会社の雑草管理担当者は「2年くらい前から草木の発育がすごく激しくなっているんです。それまでは、草がひざ丈くらいまで伸びてきた段階で草刈りを手配すると、腰までの高さにいかないうちにきれいに刈り込みができたのですが……」と困惑した様子で話した。
この担当者によると、雑草管理には、①草刈りの業者が手配してから実際に来てくれるまで時間がかかる、②発電事業者の許可を得る必要がある――という2点の難しさがある。ここのメガソーラーの場合、発電事業者との契約で年1回は定期的に草刈りをし、あとは状況を見ながらオプションで追加という形で管理会社が発電事業者に提案し、草刈りを行ってきた。2024年は「6月に草刈りを行い、8月にまた草が伸びてきたのでやりましょうという話にはなっていた。発電事業者には要請済みです」という。
フェンスが張られた部分でも、太陽光パネルは草に埋没していた(撮影:河野博子)
草ぼうぼうは発電事業者にとってデメリット
太陽光発電設備による悪影響に詳しい「比企の太陽光発電を考える会」の小山正人代表は「年に1回とか多くても3回くらいの草刈りでは雑草を抑えられません。太陽光発電施設の転売に伴う説明会などに行き、それを指摘すると、事業者は必ず、『雑草が伸びて太陽光パネルが日陰になり、発電効率が落ちると自分たちがソンをする。だからちゃんとやりますよ』と言うんです」と話し、基本的に手をかけたくない、という事業者側の姿勢に問題があると強調する。
実際、雑草の繁茂は、発電事業者にとってデメリットでしかない。話を聞いたメガソーラーの雑草管理担当者も「太陽光発電のパネルって、一部に草木の影ができるだけでも発電効率がどんどん落ちていきます。それに、最近頻発している銅線ケーブルの盗難も、草ぼうぼうの状態だと被害にあう可能性が高い。警察にも注意されました」と明かした。
このメガソーラーの近隣地域の有力者によると、発電事業者、保守点検責任者がとりわけずさんである、ということではなさそうだ。「年1回専門業者を入れて草刈りはずっと続けてきていると思う。プラスアルファで、地元の人が協力して、地域の人を雇って雑草を刈っているとも聞きました。ただ気候が違ってきているようで、これまで通りの頻度の草刈りでは間に合わないんじゃないですかね」と言うのだ。
この有力者は、こうも語った。「われわれの茶飲み話で、『どんどん草木が伸びてあんな太陽光パネルを覆っちゃってくれた方がいいよな』みたいな声が出ます。このメガソーラーが計画された当時、地域からは『田んぼに変な水が入ってこないようにしてくれ』という注文を付けましたが、景観や管理の問題を含め、悪影響についてはわからなかったのです」。
草ぼうぼうの太陽光設備がなぜ問題なのか
2024年9月、経済産業省の審議会「産業構造審議会電力安全小委員会」が開かれ、事務局の経産省電力安全課がメガソーラー火災について説明した。
その中で取り上げたのが、2024年4月15日、仙台市の「西仙台ゴルフ場メガソーラー発電所」で発生し、草地約4万㎡を焼いて約22時間後に鎮火した火災。発電所敷地外への被害はなく、けが人はいなかった。電力安全課が設置者などの説明をもとに明らかにした延焼メカニズムは以下の通りだ。
1. 太陽光パネルにより発電した電気を直流から交流に変換する「パワーコンディショナー(パワコン)」の内部の部品が故障(原因は不明)。
2. パワコン内部の温度が上がり、圧力が高まってパワコンの前面カバーが落下。
3. 燃えた部品が飛散し、周囲の下草などに引火。
4. 当日は最大瞬間風速10.1メートル/秒の風が吹いており、数日間の晴天続きで下草が乾燥していたことから、発電所内に延焼した。
火災事故の詳細がわかったことを踏まえ、電力安全課は設備周辺の下草についてより具体的に対策を示す必要があると説明した。現行の電気事業法の技術基準では、「人体に危害を及ぼし、物件に損傷を与える恐れのある施設等の防止」がうたわれているものの、直接的で有効な措置が示されているわけではないからという。
一方、一般社団法人太陽光発電協会(会員は太陽光パネルのメーカー、発電事業者を含め太陽光発電に関する幅広い分野の155社・団体)は「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」を作成。西仙台ゴルフ場メガソーラー発電所火災の直後には、保守点検の実施、草刈りなどの対策を促す注意喚起を出した。その中で、「最近、地上設置の太陽電池発電設備では、草刈りが必要十分に行われていない例も見受けられる」と警告している。
草木に覆われたまま放置されている個人所有の太陽光発電設備の問題について、太陽光発電協会の亀田正明技術部長は「空き家問題と一緒です」と述べ、続けた。「現在は、放置された太陽光発電所はそんなにはないと思いますけど、放置状態、手入れしていないものはあるかもしれませんね。われわれはホームページで手入れに必要なチェックリストを示して、ちゃんと手入れしましょう、こういうのは問題ありますよ、と紹介しています」。
放置状態にある太陽光パネルは「廃棄物」?
環境、経産両省は、放置対策に関連し、空家等対策特別措置法の概要を有識者会議の参考資料に載せている。特別措置法は2015年5月に施行され、2023年12月に改正法が施行された。これにより、適切な管理が行われていない空き家に対して市区町村が指導、勧告を行えるようになった。さらに、倒壊の恐れがある、あるいは衛生上周囲に害を及ぼす空き家の場合は「特定空き家」に指定して取り壊すよう求める命令や代執行などの措置を定めた。
放置状態にある太陽光パネルなどの設備が「廃棄物」にあたるかどうかの判断は難しい。電気的な接続が切られていれば電気事業法に基づく電気工作物ではなくなるが、行政が設備の所有者に連絡をつけても、「売るつもりだ」と言われれば廃棄物には当たらず、所有者が自分の土地や借りた土地に置きっぱなしにしていても、問題にはできない。
そこで、廃棄物にあたらない場合でも、周辺環境に害を及ぼす可能性のある場合には、行政が動けるような制度が必要になる。
リサイクル義務化制度づくりのスケジュール
環境省環境再生・資源循環局によると、太陽光パネルリサイクル義務化の新制度づくりは、年明けの2~3月に法案をまとめ、閣議決定を経て4~5月に国会審議というスケジュールで進んでいる。岡粼雄太制度企画室長は「大きな課題は2つあります。コストをだれに負担してもらうのかということと、放置、不法投棄対策をどう制度に落とし込めるかということです」と話した。
メガソーラーなどが買い取り期間終了と同時に事業をやめれば、まとまった量の太陽光パネルが排出される。まだ約10年以上先の話だが、大規模な発電所からいっぺんに大量排出されないよう、パネルが使える間は使い続けられるようにする方策も議論されている。
なかでも、一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会は放置案件をめぐり、所有者に事業を続ける意思がない場合、行政が関与したうえで適正な事業者に譲渡してもらい、発電事業を続けるなどの方策を提案し、注目されている。
(河野 博子 : ジャーナリスト)
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