いよいよ地獄に突入「消費税に過剰依存した政府」の更なる増税意欲
「日本経済は、33年ぶりの高水準の賃上げ、名目100兆円超の設備投資、名目600兆円超のGDPを実現するなど前向きな動きが見られる。この好循環を後戻りさせることなく、デフレ脱却を確かなものとし、新たな経済ステージへの移行を実現していく必要がある」。石破茂政権が2024年度補正予算案を国会に提出した12月9日、加藤勝信財務相は財政演説で「わが国の経済は回復に向けての兆しが見られており、これを確かなものとし、成長型経済を実現する好機を迎えている」と強調した。国内景気が回復基調にあるのは、全体としてはたしかなのだろう。しかし、帝国データバンクによると2024年11月の倒産件数は834件と31カ月連続で前年同月(773件)を上回った。11月としては2013年以来の800件超えだ。一体今日本経済に何が起こっているのか。なぜ生活は苦しくなるばかりなのか。作家で経済誌プレジデントの元編集長、小倉健一氏が解説するーー。
目次
倒産が単一企業にとどまらず、経済全体に波及
帝国データバンクの調査によると、2024年11月の倒産件数は前年同月比で7.9%増の834件となり、31カ月連続で前年同月を上回った。この数値は、11月としては2013年以来となる800件超えであり、年間累計件数は9053件に達した。12月を残した時点で、これは2015年以降で最も多い件数である。さらに、負債総額も急増し、前年同月比で72.7%増の1522億4400万円となっている。
倒産件数の増加は、単なる数字の問題にとどまらず、経済全体の健康状態を示す指標でもある。その背景には、競争力低下や財務の悪化、資金繰りの困難さといった要因があるが、特に最近では消費税や社会保険料の滞納が主因となって倒産に至るケースが目立っているようだ。特に消費税の滞納は顕著であり、資金繰りに苦しむ中小企業にとって大きな負担となっている。
2024年11月には倒産件数と負債総額の急増が見られたが、これは大型倒産が主因である。例えば、日本電解株式会社の倒産は市場全体に大きな影響を与えており、倒産が単一企業にとどまらず、経済全体に波及することを示している。
政府の経済政策も倒産件数の増加に大きく関与している。たとえば、コロナ発生時に行われたゼロゼロ融資は一時的に中小企業を支援したものの、返済開始後には負担が増し、倒産に至る企業が相次いでいる。
消費税の新規滞納が急増している
このような短期的な救済措置だけでは、持続可能な経済基盤を構築するには不十分であり、政府の政策設計の欠陥を浮き彫りにしている。
注目すべきは、消費税の新規滞納が急増している点である。2024年のデータでは、税や社会保険料の滞納を理由とする倒産が急増しているとされており、消費税の滞納がその中で最も大きな割合を占めている。具体的には、消費税滞納が全体の54.8%を占め、法人税滞納の4倍に達している(※1)。
東京商工リサーチの分析によると、2024年1~11月に税金や社会保険料の滞納を理由とする倒産は累計165件に上り、前年同期比で103.7%増加した。11月だけでも10件(前年同月比9.0%減)が発生しており、2024年はすでに年間最多記録を更新し続けている(※2)。
数多くの中小企業の税務を担当してきた井出進一税理士は、次のように警鐘を鳴らす。
コロナ禍のダメージから業績が回復しきれていない
「コロナ禍までの企業のダメージから業績が回復しきれないままの状態で物価上昇や賃上げ要請が追い打ちをかけ、さらにコロナ融資の据え置きだった元本の返済が始まっているため、急激に資金繰りが厳しくなる中小企業が増えています。消費税は赤字であっても決算時などに高額な納税が発生するため、多くの企業にとって最後の一押し、つまり倒産の引き金になっている可能性があります。売上の減少やコストの上昇で利益が減少し、借入金の返済で運転資金が枯渇しても、さらに消費税で納税時に多額の現金を捻出しなければならない。この仕組みが中小企業の資金繰りを一層厳しくしていると思われます。」
消費税に代表される間接税は、イギリスでは「罪税(sin tax)」とも呼ばれるほど、低所得層に特に厳しい税金として知られている。この呼び名が示すように、間接税は生活必需品にも課税されるため、所得に関係なく一律の負担が発生し、結果として貧しい人々をさらに苦しめる構造を持つ。この点で、消費税は富裕層よりも低所得層に相対的に大きな負担を与える「逆進的な税制」の典型例であり、その影響は国民生活だけでなく、企業経営にも深刻な影響を与えている。
政府は消費税を「安定財源」と位置づけ、不況や景気変動にかかわらず安定した税収を確保できる点を強調している。
罪税としての消費税の影響
確かに、消費税は消費活動に基づく税制であるため、経済が停滞しているときでも一定の収入を維持できる特性がある。しかし、この「安定性」は、国民、特に低所得者層の犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならない。
日本の消費税は企業が売上の一部を消費者から預かった税金と想定して国に納める間接税とされている。消費税が「預り金的な性格を有する税」と言われる性質を踏まえると、一見すると問題は企業側の管理能力や資金繰りにあるように見える。消費税は、消費者から預かった(とされる)分を適切に管理し、納税する仕組みであるため、理論上は企業がその分を他の目的に流用しなければ納税に困ることはないとされている。しかし、現実はそう単純ではない。
罪税としての消費税の影響は、低所得者に対する負担にとどまらず、中小企業に対しても深刻な影響を与えている(インボイス制度の開始後は、これまで消費税の免税事業者だった零細企業も影響を受けることになるだろう)。特に、コロナ禍を経て資金繰りが悪化している企業では、消費税の納税が事業継続の妨げとなることが実態としてある。コロナ融資の返済が始まる中で、消費税の納税がこれに追い打ちをかけ、運転資金が枯渇し倒産に至る事例が多発しているようだ。
消費税率をアップしようとする姿勢
政府が消費税を「安定財源」として依存しさらには消費税率をアップしようとする姿勢は、税制の柔軟性を著しく欠いているといえる。不況時における消費税の存在は、消費意欲をさらに抑え込み、経済回復を妨げる要因にもなる。低所得層や中小企業が苦しむ中で、政府が「安定収入」を優先することが本当に公正と言えるのか疑問が残る。現行の消費税制度が、社会的に弱い立場にある人々や企業をさらに苦境に追い込む構造を持つのは、理論上の「預かり税」という性質より、実態を見ていくべきということに尽きる。
「実は税務当局も消費税の滞納には注視しており、事前に消費税の納税猶予制度などを案内して、なんとか資金繰りの悪化や滞納を食い止めようとする対策なども行っているようです。しかし、納税猶予や消費税の分割納付などを行ったとしても、一定の期間内に業績を立て直して納税しなければならないことに変わりはありません」(井出税理士)
消費税収入に過剰に依存
「物価上昇などで経営環境が厳しい中で先延ばしにした納税が解決しなければ、最終的に積みあがった滞納税金に対して差し押さえが執行されることになります。こういった状況も倒産件数の増加に表れているのではないでしょうか。確かに、消費税の滞納に対して取り立てを行うことは税制度の公平性を保つうえで重要なのですが、企業に対して赤字でも発生する消費税の納税額が非常に高額になっているのが現状です。」(井出税理士)
政府は、消費税収入に過剰に依存しており、将来的な大増税を見据えて、さらにその依存を増やそうとしている。この依存構造が、消費税廃止や減税といった選択肢を議論する余地を狭めている。不況時であっても安定した財源として機能する消費税は、政府にとって重要な収入源であるが、それが経済政策の柔軟性を欠く原因にもなっている。結果として、企業や国民が不況の中でさらなる負担を強いられる構図が生まれているのだ。
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