トランプ氏の「経済戦争」により引き起こされる株式の大暴落と巨大な経済危機を専門家が解説
森永卓郎氏が予言した4000円まで落ちる可能性がある。
関税戦争の衝撃
アメリカのトランプ氏は、就任以来、わりと大胆な大統領令や新しい政策を次々と発表しています。
その中でも、影響がかなり強力になりそうなもののひとつが、「カナダとメキシコに25%の関税を課す」というもので、これに対して、カナダはただちに対抗措置を発表しています。
これが、世界にどんな影響を与えるのかは具体的にはわかりませんが、マーケットはかなり過剰に反応していて、日経平均なども、一時 -1000円を超える下げとなっていました。仮想通貨なども、ほとんどが急落しています。
もちろん、こういうことは、あくまで超短期の話であって、この先どのように落ち着いていくのか(あるいは落ち着かないのか)も、またわからないです。
このトランプ氏の「関税戦争」については、さまざまな意見がありますが、少なくとも短期的には市場にも経済にも、また一部の企業経営にも混乱をもたらす可能性が強いと考える人は多いようです。
このような意見は熱烈なトランプ支持者の専門家たちからもかなり出ています。
最近、ジェームズ・リッカーズ(James Rickards)さんというアメリカの弁護士であり経済学者であり、投資銀行家である方の寄稿した記事を読みましたが、このリッカーズさんも、熱烈なトランプ支持者の方ですが、最新の記事のタイトルは「米国に景気後退が来る」というものでした。
このジェームズ・リッカーズさんの文章については、過去にも何度か取り上げていまして、最近では、昨年 11月の記事で、差し迫った核危機について書いていました。「核のチキンゲーム」という記事で翻訳しています。
その時のリッカーズさんの文章の締めは以下のようなものでした。
> ロシアはトランプ政権と直ちに交渉を始める用意があると示唆しており、トランプ氏の次期大統領就任が第三次世界大戦を阻止できる唯一の手段かもしれない。
>
> トランプ氏の大統領就任式の日が早く来てほしい。
この時は、戦争に関しての話題でしたが、リッカーズさんの専門はあくまで経済と金融でして、最新の記事ではそれについて書いています。
その文章をご紹介したいと思いますが、相当長いものですので、部分的にご紹介します。
まず、記事の冒頭は以下のように始まります。
記事「リッカーズ氏:米国に景気後退が来る」より
トランプ新政権は順調なスタートを切った。
トランプ内閣とホワイトハウススタッフの主要指名はすべて行われ、上院での承認公聴会もほぼ開催され、主要ポストの一部はすでに埋まっている。トランプ氏は就任直後の 1月20日と 21日にかけて、大量の初日大統領令に署名した。さらなる大統領令が準備中だ。
…私たちはトランプ大統領の経済計画に非常に楽観的だ。大統領令、規制プロセス、法律のいずれの手段によっても、トランプ大統領は米国内で高給の雇用を促進するために、外国貿易相手国に対する減税、規制緩和、関税引き上げを追求するだろう。
トランプ氏のアメリカ第一主義政策は中国、インド、ブラジルなどの成長を阻害するかもしれないと不満を言う人たちもいる。それはあり得ることだが、そう思うことは残念なことだ。
中国は中国を再び偉大にする方法を自ら考え出す必要があり、そして、それはあくまで中国の仕事であり、米国の仕事ではない。トランプ氏の仕事はアメリカを再び偉大にすることであり、彼は順調なスタートを切っている。
このように、トランプ大統領への大絶賛で始まるのですが、しかし、記事のタイトル「米国に景気後退が来る」でおわかりのように、途中から記事は、「短期的には」として、アメリカの経済や金融に厳しい局面がやってくると述べ始めます。
アメリカの経済や金融に問題が生じれば、当然、日本にも波及しますので、まったく関係ないこととは言えないものであり、特に株式市場や他の一部の金融商品などは、現在、ややバブルめいた部分もないではない時期でもあり、不安定な状態が続いているとはいえます。
ここから、リッカーズさんの記事の後半となります。
リッカーズ氏:米国に景気後退が来る
Rickards: A U.S. Recession is Coming
dailyreckoning.com 2025/01/31
迫りくる3つの脅威
トランプ大統領の政策は健全であり、長期的な経済見通しは良好であるという事実があるにしても、短期的には深刻な経済課題があるという事実から目をそらすべきではない。
これらは何年もかけて形成されたものなのでトランプ大統領のせいではない。
しかし、その損害はトランプ大統領の任期の早い段階で表面化する可能性がある。
このシナリオは、1981年にロナルド・レーガン大統領の最初の任期が始まったときと似ている。
米国は 1981年から 1982年にかけて、第二次世界大戦の終結以来最悪の不況に見舞われた (それ以降もさらにひどい不況はあったが、1981 年から 1982年がそれまででは最悪だった)。
レーガンの政策が効果を発揮するまでには数年かかった。1983年から 1986年にかけては、実質複利成長率が 16%に達し、近年で最も急成長した時期の 1つだった。しかし、まずは困難な時期を乗り越えなければならなかった。
2026年以降に期待される高水準に到達する前に、2025年に発生する可能性のある投資家に対する 3つの経済的脅威の概要は次のとおりだ。
1. 株式市場の暴落
市場は、PER (株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される尺度)、CAPE 比率 (株価の割高感を測る投資指標)、時価総額/GDP 比率、集中リスクなど、利用可能なすべての指標に基づいて、過去最高かそれに近い水準にある。
この株式市場のバブルは、インデックス化、投資家の自己満足、アナリストたちの熱狂によって増幅されている。
過去にこのような状況があったときは、常に数年にわたって 50%から 90%の市場暴落が続いていた。例としては、ダウ工業株 30種平均の暴落(1929年)、日経平均の暴落(1989年)、NASDAQ の暴落(2000年)、S&P 500指数の暴落(2008年)などがある。
私たちは今、歴史的な暴落に見舞われようとしている。
具体的な原因は重要ではない。戦争、自然災害、銀行やヘッジファンドの破綻、その他の予期せぬ出来事などだ。重要なのは、引き金が引かれたときの市場の超脆弱性だ。
これが、ウォーレン・バフェットが 3,000億ドル(約 46兆円)以上の現金を保有し、中央銀行が金を購入している理由だ。
投資家は今から準備すべきだ。最後に知る人にならないように。
戦略としては、株式への配分を減らし、現金への配分を増やし、金(投資可能資産の最大 10%)を購入して質への逃避に参加することなどが挙げられる。
2. 米国の景気後退が近づいている
これは株価暴落の可能性とは関係なく、株式にとって問題だ。インフレは継続し、エネルギー価格は一時最高値に戻り、失業率は上昇し、求人は凍結され、製造業は縮小している。
連邦準備制度理事会の利下げは役に立たない。それは「刺激」にならない。利下げは経済の強さではなく弱さの兆候だ。連邦準備制度理事会は金利市場をリードしているのではなく、市場の動きに追随しているのだ。
もちろん、景気後退が市場の暴落を引き起こす可能性はある。しかし、たとえそうならなかったとしても、景気後退は一般的に 1年以内に株価が 30%下落することを伴う。景気後退に対する投資戦略は、暴落戦略と実質的に同じだ。
3. 通貨戦争が再燃し、貿易戦争も勃発
現在、ドルが超高騰しているため、他国が米国製品を購入することは困難だ。関税により、外国投資家が関税の壁を飛び越えて米国に直接投資するためにドルを求めるため、世界的なドル不足はさらに悪化するだろう。
ドル高と米国の関税導入は、貿易相手国による報復を招き、相手国も関税の壁を建設することになる。
その結果、世界貿易が縮小し、1930年代の大恐慌時の貿易崩壊に似た状況になる可能性がある。
貿易戦争が起こった 1929年10月から 1932年6月にかけて、米国株は 85%下落した。中国などの経済国が貿易戦争に踏み切ると、同じ事態が繰り返される可能性がある。
私たちはこれらすべての脅威を注意深く監視し、今後数週間から数か月の間に最善の分析と推奨事項を提供していく。
ここまでです。
株式の話を最初の「1」にしたのは、アメリカの場合、株式の保有者数の割合が日本とは状況が異なるためかもしれません。
何しろ現在のアメリカは、
「米国の世帯の 40%以上が株式を保有している」
という状況なのです。
以下に詳しい翻訳記事があります。
・アメリカ人の株式保有率が過去最高水準に回復。世帯の金融資産の41%以上が株式
BDW 2024年8月13日
10世帯に 4世帯が株式を保有しているという状況で、株式の大暴落などが起きれば、個人的な経済状態にも大きく関係することになります。
先ほどのリッカーズさんの記事には、
> 常に数年にわたって 50%から 90%の市場暴落が続いていた。
という部分がありますが、それらの時代は、まだ今ほど個人のデジタル取引が盛んだったわけでもなく、あるいは、今ほどアルゴリズム(コンピュータが自動的に株式売買注文を繰り返す)取引が全体の中で比率が大きな時代もなかったはずです。
つまり、「現在は、コトが起きると速度がはやい」と。
暴騰も暴落も一瞬で…は大げさですが、あれよあれよという間に、逃げ場なく大暴落に巻き込まれてしまうということも起きやすい。昨年の夏、日経平均が 1日で 5000円だかの急落をあっという間に起こしたことを思い出します。
ですので、株だけではないですが、暗号資産にしても、他のさまざまな投資にしても、慎重になる時期とは言えそうです。
実際、世界のヘッジファンドは現在、ものすごいペースで「空売り」を積み上げていて、英テレグラフは以下のように報じています。
テレグラフより
ヘッジファンドは、市場暴落への懸念から、ドナルド・トランプのアメリカに対して数十億ドルを賭けている。
ゴールドマン・サックスのデータによると、米国株に対する「空売り」が急増しており、これは株価が下落したときにトレーダーが利益を得ることを意味し、市場に対する懸念が高まっていることを示している。
ゴールドマン・サックスによると、投資家の1月に米国株が下落すると予想する額を、主要米企業の株価が上昇すると予想する額の 10倍を上回った。
finance.yahoo.com 2025/02/01
この現在の状況について、英デイリーメールは以下のように報じていました。
デイリーメールより
ヘッジファンドのビリオネアたちは株式市場の暴落で何億ドルもの利益を得ることになるが、この金融ギャンブルの本当の被害者は一般のアメリカ人投資家たちかもしれない。
何百万人もの労働者が将来の保障として 401(k)プランや年金基金に頼っている。しかし、ヘッジファンドがウォール街の崩壊に巨額の賭けをしているため、次に被害を受けるのはこれらの貯蓄口座かもしれない。
401(k)プランとは、アメリカの個人年金制度の一つで、加入者の投資収益がその口座に蓄積されるというものです。
大暴落が起きた場合、年金も大幅に消えてしまう可能性があるということなのだと思われます。
とはいえ、1929年(大暴落)までのチャートと、現在のチャートを比較してみれば、ヘッジファンドの人たちが空売りに殺到するというのも理解できなくもないのですが。
1914〜1929年と現在のダウ平均株価のチャートの比較
BDW
この 1929年10月に始まった暴落の、底を打つまでの約 34ヶ月後までの下落率は -89%でした。今の日経平均でいえば、現在の約 3万9000円の株価が、3年後くらいまでに 4000円くらいになったというような感じでしょうか。
まあ、そこまでの暴落が起きるとは、ちょっと考えにくいですが。
本当に暴落が起きるのかどうかは素人の私には何とも言えないわけで、それでリッカーズさんのような専門家の記事をご紹介させていただいた次第です。あとは皆様自身がお考えになることだと思います。
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