時短要請の21時を過ぎても帰らず、店に残り
二度目の緊急事態宣言が1都3県でようやく解除されてから、わずか3日後の3月24日。東京で最大級の繁華街、銀座では飲食店に対する営業時間の短縮要請が継続していたこともあり、夜になると人影はまばらだった。
しかし、ある居酒屋は違った。1グループ23人もの参加者が集い、深夜まで盛大な宴会が催されていたからだ。
この大宴会の参加者が、よりにもよって新型コロナウイルス対策を担う厚生労働省に属する官僚たちだったと聞けば、一般の人たちはどんな感想を抱くだろうか。
「大人数での飲食自粛」は政府や自治体のメッセージ
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は参院内閣委員会や記者会見など公の場で、再三再四にわたって「会食はなるべく5人以下にしてほしい」と訴えてきた。新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念される中、大人数での飲食自粛は政府や自治体のメッセージだ。緊急事態宣言下で「夜の銀座」へクラブ通いをして自民党や公明党の議員が離党や辞職に追い込まれたのは記憶に新しい。
むろん3月24日時点では緊急事態宣言は解除されていた。宴会の一部始終を再現してみよう。
19時10分、人影もまばらな店内に、厚労省老健局の職員6人が訪れた。席に通されるやいなや、マスクを外して談笑が始まる。「今からまだまだ来るから」と言い、参加者が集まるのを待っていた。
この日は国会開催中だったため残業もあったのだろう。集合は三々五々、ぽつりぽつりと職員が店を訪れる。19時50分を回り、10人が集まったところで幹事の職員が「では乾杯しましょう」と発声。グラスを重ね、拍手が起きた。
参加者たちは出された食事をつまみながら、話に花を咲かせている。感染防止などどこ吹く風で、誰一人マスクをせずに大きな声で盛り上がってきた。濃厚接触間違いなしで、1人でも新型コロナになっていればクラスターの発生さえ危惧される。その間に1人、また1人と店を訪れ、20時10分の段階で17人に。幹事の「改めて乾杯しましょう」との掛け声に、「かんぱーい!」と大きな声が会場に響き渡った。
厚労省によれば、この宴会は人事異動に伴う送別会だったという。そのため異動対象者がみんなの前で挨拶、その都度、「お疲れ様でしたぁ」との歓声と拍手が起きていた。
最後の厚労省官僚が訪れたのは21時30分ごろ
会は盛り上がっていたが、店側は困惑気味だった。というのも、時短要請によって21時に店を閉めなければならないのに、「これからまだ来るから」と料理の提供を一時的に止められていたからだ。23人目となる最後の厚労省官僚が訪れたのは、営業終了時間を30分も過ぎた21時30分ごろ。盛り上がっているため店側も中断させることができず、スタッフは「まだまだ終わりそうにないなぁ」とぼやいていた。
結局、宴会が終わったのは22時30分ごろだった。
23人もの厚労省官僚が、マスクなしで深夜まで宴会をしていた事実だけでも驚きだ。しかし、これで終わりではなかった。話が尽きなかったのか、支払いを済ませた後もぐだぐだと店に残り、全員が店を出たのは日付が変わる寸前。地下鉄の駅に急いで向かう職員もいたが、一部には「もうこの時間だし」と言ってタクシーで銀座を後にしていた。
緊急事態宣言が解除されたからとはいえ、感染の再拡大が懸念されており、企業や団体は、夜の会合や宴会の実施について独自の基準を定め、社員や職員などに順守するよう求めている。例えばある大手銀行は原則禁止、どうしても必要な場合は上司の承諾を得たうえで認めるものの、参加者は最大4人までにするよう求めているという。
この銀行の幹部は、「従業員を守るという意味に加え、相手にも迷惑をかけてしまうのを防ぐためだ。万が一クラスターなどを起こしてしまえば、社会的な責任も問われかねず、しばらくの間は細心の注意を払っている」と語る。
会合の制限基準はあるものの順守されず
法制度で公に定められていないとしても、社会的責任を鑑みて内規の整備や通達がなされている組織は少なくない。こうした取り決めがコロナ対策の総本山である厚労省にはないということなのか。
厚労省は、「大臣官房人事課から各部局に対し、業務後の大人数での会食や飲み会を避けるよう指示している」とするとともに、政府が2020年3月28日に発表した「感染リスクが高まる5つの場面」に該当するような行動は避けるよう指示しているという。次の5場面だ。
今回はこの「5つの場面」のうち、「①飲食を伴う懇親会等」「②大人数や長時間におよぶ飲食」「③マスクなしでの会話」という3つに該当。特に、②の中で感染リスクが高まる事例として上げられている「5人以上の飲食」についても完全にアウトだ。
こうした事態について厚労省は、「今回の会食は指示の趣旨に反するものであり、再発防止のため改めて指示をし、全職員の認識を徹底することとする」とコメントする。
確かに新型コロナの感染が拡大して以降、対策の中枢を担ってきた厚労省の職員たちはハードな仕事を強いられてきたため、宣言解除で気が緩んだのかもしれない。4月の新年度を控えた人事異動はどの職場にもあり、送別会を大々的に開きたくなるところだ。国民のコロナ疲れも限界に来ている。
しかし、国民に対し不自由な生活を強いている立場であることを考えると、いささか軽はずみな行動だったのではないかと言わざるをえない。
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